Menu

水面下

It ’s an unofficial fan site.

ザザキ×ケタル

『それ、もう一回言って。』をお題にSS、ザザキ目線

ザザキはイライラしていた。

夕暮れの森の中、転がる石を蹴飛ばしザザキは慣れた道を歩く。
ふと足を止め、立ち寄った先は主不在の寝床。
数日温もりが与えられないそれを見る度にザザキは日々湧き始める感情に戸惑っていた。
寝床の主はケタルだった。
遠征はいつもザザキが出る事が多いのだが、今回に限ってはケタルが初めて長期の遠征に呼ばれ、数日行ったきりまだ戻らない。
いつもの長期遠征より日数があるため帰るまでにはいつもの倍はかかると、あの王が言っていたのを思い出しザザキは舌打ちする。
遠征初日はむしろ「たまには鈍った体を鍛えてくるのもいーんじゃねェの」なんて余裕をかましていたのに、日が経つにつれケタルのことや安否についてやらが脳裏を過るし、時の長さはいつもの倍長く感じるし、待てど待てど日は暮れないし、夜は簡単に明けなかった。

ケタルの遠征は今まで何度かありはしたものの短期が多かったし、過去に長期で向かうこともあったがその時はまだ番ではなかったのだ。
番になってからはいつも待たせる側であったのに、今回は待つほうになるとはザザキは正直思っていなかった。
遠征をしている時は、仲間の安全や外部からの危険に対して気を張っていることが多く、ヘマをすれば死に直面することを考えると、行く時も帰る時もそれは変わらず秒を争ったため、待っている一族のことを考えている余裕などはない、村の近くまで帰ってきてようやく肩の力が降りるのだ。
そして、自分の寝床に帰るよりも先に、ケタルの元へ足を運んで、帰ってきたことを教えるのだ。

だから今回もアイツを待たせて、帰ってきたら安心しきった顔を向けられ「おかえり」なんて言われて、抱き締めてやって、お互い疲れてなければそのまま寝床に雪崩れ込んで、自分が疲れるまでケタルのことをたくさん愛して抱いていたのに。なんて、そんなことを考えていた。

しかしどうだろうか、実際待つ側になってみるとどうにもこうにも落ち着かない、そこらへんを飛び回る鳥の番を見ては、イライラとするのだ。ケタルもこんな気持ちで過ごしていたのだろうかと、今は側にいない番の感情を自己投影してみるが、なんだか違うなと考えることをやめた。
それから数日たったある日、ザザキは自分の寝床に帰るのもなんだか気が淀むようになり、ケタルの寝床に乗り込み倒れ込むとぼうっとしながら腕を天に仰いで掌を見つめた。

いつも抱き締めていた感触や体温はどうだったかと開閉して思い出してみるが、数日触れていないことで忘れかけてしまいそうなほど、掌は記憶に答えてくれなかった。
ザザキの胸はじくじくと、不満な感情で満たされそうだった。
この感情はなんだったかと言葉を探すが、遠い昔に置いてきてしまった気がしてうまく見つからない。
当たり前のようにいつも側にはケタルがいたのに、今はいない。
わかるのは、それだけ。

日も落ちてきた頃、いい加減に自分の寝床に戻ろうかと億劫そうに深い溜め息をつきそうになった頃、外から地面を踏みしめる音がした。
はっとザザキが警戒して起き上がり、寝床から身を乗り出すとそこには、ザザキがずっと待ち望んでいた姿があった。

「え、ザザキ……お前、ここにいたのかよ」

紺色の髪を揺らめかせ、髪色と同じ瞳を大きく見開いて驚いたような呆れたような顔を向けてきたのは、ケタル。
待つのも飽きて日を数えることもやめていたザザキは、いつ頃帰ってくるかを、今日がその日だったなんてことを想定していなかった。
ケタルを見た瞬間、ザザキは胸の内から今までの重い感情がぶわりと溶けていくのが己にもわかり、ぞわっと身震いした。
なんだか気持ち悪いような、気持ち良いような感覚にザザキは溜め息を深くつくと、吹き飛ばすように声を放つ。

「……おっ……っっせーーーよ!!」
「お前の所に行ったら居なかったんだ!なんで俺の所にいるんだ!あーもう……」
「ンだよ、探したのか」
「当たり前だろ、そんなの」

ケタルはザザキの隣に座り込むと、むっとしながらザザキの後ろ髪から垂れる尻尾を掴み引っ張った。グンッと寄せられたザザキと、ケタルの額がゴツリとぶつかると、二人の瞳が直線に重なった。
避けられない、避けたくない、視線のぶつかり合い。
その状態で先に口を開いたのはケタルだった。

「……会えなくて、ちょっと寂しかったんだからな、こっちは」
「……は」

その言葉に、ザザキはぎゅっと心を締め付けられた気がした。
思い出せなかった感情と、結びつけられた言葉が繋がった。

「……聞こえなかった。もう一度、言え」
「はー……お前な、わざとだろ。……寂しかったって言った」
「……くははっ……そんなにオレ様に会いたかったか!」
「ザザキ、ここにいる時点でお前も相当な寂しんぼだぞ」
「あー……まあ、珍しく否定しないでおいてやるか」

思い出した感情は、寂しさ。

しかしそれを口にするのはどうにも肌に合わなくて誤魔化したかったが、結局はケタルに見透かされるハメになった。隠したところで得をするわけでもなかったので、ザザキは素直にそのまま言葉を受け入れた。
「寂しかったならそう言えば良いのに」とケタルが言いそうになったので、ザザキはそのまま両手でケタルの後頭部と腰に触れ、自分に引き寄せて唇を重ねた。

何度か深く重ね合った唇を離して見つめてやると、熱を帯びた紺色の瞳がザザキの心をざわめかせる。自分の背に回った腕の温もりに応えるようにザザキはケタルの体に掌を走らせた。

抱き寄せた体が、体温が、暖かく、たまらなく愛しい。

掌が、体が、忘れかけていた体温を思い出すようにケタルに触れる。

己にまた記憶を染み込ませるように、その夜、ザザキが番を手離すことはなかった。




2019/09/22 Site up
2018/04/09 Create

top