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水面下

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ザザキ×ケタル

食べる。ザザキ16、ケタル15。

あまくてそしてあまい

深く被っていたフードをばさりと脱げば、太陽の光を受けて灰色の髪がきらきらと銀色のようになびいていく。
ご機嫌な足取りで野を駆ける少年ザザキの懐には、片腕に収まる程度のちいさな麻布袋が隠れている。
子供だけでは行っては行けないとあれほど言われていたにも関わらず、こっそり忍び込んだ人間の街。一人で買ってきたものを大事そうに抱えながら、ザザキは森の中へ駆けた。

歩き慣れた森の草木を掻き分けて、鼻唄混じりに向かった先は、樹齢何千年にもなりそうな大樹の幹の根本。
大樹は他にもたくさんあるのだが、ザザキが足を運んだこの場所は大樹の根が地に張り入り乱れ裂けうねり打ち、ザザキの足元と頭上を走る根のその姿は自然にできた隠れテラスのようで、そこを“ふたり”は秘密基地のように使っていた。

「おい、ケタル、ケタル!」
「なんだよ、さわがしいな」

大樹の根の下でひとりで武器の殺陣をしていたケタルは、軽快に根から根に飛び移り自分の側までやってきたザザキを見て腕を止めた。
最近になりようやく武器の稽古をつけてもらったケタルは、楽しく自主練をしていたところへ突然やってきた邪魔物に怪訝な表情をするが、どうにも機嫌のよさそうなザザキを見てつい好奇心が勝ってしまった。

「なにか良いことでもあったか?」
「くはは、驚くなよ。オレ様のことソンケーしろ」

ケタルが自分に興味を示していることにご機嫌になり、ゆらゆらと尾を振りつつザザキは麻布袋の中から取り出したものをケタルの眼前に突き付けた。

「見やがれ、この黄金色!」
「!……これ、南方の山を越えた場所でしか採れない蜂蜜だろ……」

この辺りの山々の蜂蜜は、どうにも褐色の蜜を出す花が多く味も渋めなのだが、人間の街を越えさらに山を越えた先では、黄金色をし黒糖のように甘い蜂蜜が取れるらしい。
ミルクに蜂蜜を入れることを好んでいたケタルは、その話を山を越えてきた渡り鳥に付き添っていた鷹の獣人から聞いて「一度で良いから舐めてみたいな」と漏らしていた。
次に来るときにはおみやげに持ってこよう、などと言われてケタルが大層期待の目に輝かせていたのをザザキは覚えていたのだ。
その時はそんなものすら得ることができない自分自身に、渡り鳥と鷹に、なんとも言えぬ負けた気持ちになっていたのだが、そんな矢先に人間の街にはその蜂蜜が売られていると獣人の女の世間話を小耳に挟んだものだから、ザザキはしめたと我先に駆け出した。
ザザキは意外にも人の中に溶け込むのが上手く、蜂蜜を買うことなど朝飯前のようなものだった。

瓶の中にとっぷりと揺らめく黄金色の液体は、まるでザザキの瞳の色。
そんな、きらきらとした色にひかれるように見つめるケタルの紺色の瞳にも蜂蜜のきらめきが映し出され、ザザキは優越感に満たされた。
ケタルの好奇心がそれぬ内に、ザザキは二人で味を見ようと蓋に手を掛けたその時、はたりとケタルがなにかに気づいて再び怪訝な顔に戻ったことに気づき、なんだなんだと顔色を伺えばケタルはザザキの顔を睨みつけた。

「………ザザキ、というかこれ、どこで手に入れた」
「……どこでもいーだろ」
「…もしかして人間の街に」
「ッッンな、わけ、ねーだろ!」

鋭い勘のケタルにギクリとしてザザキは一瞬だけ手を震わせるが、知らないふりをして蓋を開ける。
しかしケタルはザザキの反応を見逃す筈もなく、それよりなにより先程まで散々振られていた尾がピタリと止まっているせいでバレないはずもなく、ケタルはずいずいとザザキに近寄って咎めようとする。

「そもそも、この山では手に入るはずないもんな」
「ぐ……っ」
「それを採れるような獣人もいない」
「うっ……」
「大人たちが、行ったら駄目だって言ってたのに」
「るっせーな!いーだろ、無事に戻ってきただろーが!それに盗品じゃねーし!」
「そういう問題じゃないだろ!人間に見られてたらどうするんだ!」

グサグサと図星を刺しまくってくるケタルにザザキは、とうとう観念しながらがうがうと吠え返す。負けじとケタルも吠え返すと、二人の喧嘩の反動で蜂蜜の瓶がするりとザザキの手から抜け、落ち──

「……っっぶねぇーー!!しっかり持ってろバカザザキ!!」
「てめーがギャンギャン文句言うからだろーがアホケタル!!」

床に落ちる間一髪のところでケタルが低姿勢になりながら身を乗り出し両手で蜂蜜の瓶をキャッチした。その反動でばたばたとザザキのこともはっ倒し二人は倒れ込み、ケタルが蜂蜜の瓶の両手で持ちながらザザキの上に覆い被さり、ザザキはといえば両手を外に放り投げた状態で天をただ眺める状態になっているなんとも間抜けな姿であった。
ひと口論を済ませたところで、まあ蜂蜜が無事で良かったとザザキが上半身を起こしはじめると、一緒にケタルの肩を抱きながら起き上がった。
その反動でとぷりと蜂蜜がケタルの指に、手に掛かり、二人して「あ」と声が漏れる。
もったいない、とケタルが指先の蜂蜜を舐めれば「甘い」と、今まで舐めたことのない味の蜂蜜に声を少し弾ませた。
その様子に愛しさを覚えながらザザキも、ケタルの指先についた蜂蜜をひと舐め。して、ザザキは顔を少し歪ませて「…甘すぎじゃねーか?」と難しい顔をして舌を出した。
そんな様子を見て、くくっとケタルは笑う。

「他のものに混ぜたら丁度良いはずだ」
「フーン……他のモノなァ……」
「……ちょ、おい、ザザキ……くすぐっ……た……、っ……」

笑っていたケタルの手首を掴むと、ザザキは手のひらなどについていた残りの蜂蜜を、舌で念入りに舐めとっていく。
指先に舌を這わせたかと思えば、指先はザザキの口の中に吸い込まれ、舌を愛撫しながら解放した濡れた指先の熱は外気でひやりと強制的に冷ましていく。
そのあとも、指の間や手のひらを丹念に舌を這わせたり、指を甘く噛んでやったりするたびに、ケタルはピクリと手を震わせ、漏れそうな声を抑えていた。
声を出してもいいだろうに、なかなかに負けず嫌いなケタルを気配で感じて残念そうな気持ちになりながらも、すべての蜂蜜を舐めとったザザキはケタルの手のひらに最後にキスをして解放してやった。

「ごっそーさん」
「……っおま……ベタベタじゃねーか」

息を押し殺していたせいで真っ赤になったケタルが、わなわなとザザキを恨めしげな目線で睨み付ける。
その反応、嫌いじゃねーと、己しかきっと引き出せないであろうケタルの反応にザザキは内なる多幸感に満たされ、尻尾をゆらゆらと再び揺らした。

「綺麗にしてやったろーが」
「オマエの唾液でベタベタなんだよ!」
「くははは」

ザザキはざまぁ!とでも言うように笑ってから、悔しげにしているケタルの持つ蜂蜜に人差し指と中指の二本の指を差し、引き上げ、黄金色の糸を引かせ、糸がぷつりと切れるとそれをケタルの口許にあてがった。
ザザキの無言の行動にためらいながらも、ケタルが唇を薄くあけたのを合図に、口の中に指をずぷりと差し込む。
そしてケタルの舌の上を指先で撫で、上顎を優しくくすぐってから、二本の指で舌を上下に挟み手前にスライドさせながら、ケタルの舌と共に口の中から指を抜いた。

「おらよ、オアイコだろ」
「っは……は……どこがだ……ばかやろ……」
「ンだよ、オレ様のほうが濡れたりねーか?」
「……ちっげー……し……」

ケタルの口許とザザキの指先の間に伝う、唾液と蜂蜜の混合糸がふたりの目の前で事切れる。
それを合図にザザキは、口許にベタついてしまったケタルの唇に舌を這わせて啄むようにキスをしてから、少し離れて自分の唇を舌舐めずりした。

「確かに他のモンに混ぜたら、マシかもなァ?」
「……俺は食べ物じゃないんだが」
「オレ様にとっちゃ似たようなモンだっつーの」
「……食べたいか?」
「食われに来いよ」

二人の目線が、熱い火花がバチリと交わると、ケタルは蜂蜜の瓶を床に置いて、指先を蜂蜜の中に差し込んだ。



あまくてそしてあまい

2019/09/22 Site up
2018/05/08 Create

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