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水面下

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漣×タケル

あまめの漣タケ。形の定まらない「嫉妬」に近いもの。

風と一緒に

 飛行機が欠航になった事により足止めをくらってしまった漣とタケル。

 理由あって先に現地に到着している道流たちに連絡をし、ひとまずプロデューサーから臨時移動手段や交通機関手配の情報が届くのを待っている間、ふたりは暫く進展のない騒々しい港内から一旦離れようと展望台に上がった。

 ひろがる空は青く高く、迎えてくれた風は澄み渡っていた。

 展望台から見下ろした旅客機たちが気持ち良さそうに飛んでいるのを眺めていると、目的地への便がまったく動かないのが嘘のようだった。
もちろん他の便にも影響は出ているのだろうが、それがどの規模であるのかは二人にはわかるはずもなかった。
展望台には他にも何人か客がいたが、風の肌寒さに慣れなかったのか数分でいなくなってしまった。
寒い風に慣れていたタケルはむしろそれが心地よくて落ち着いた。
もう少し風に当たりたくて展望台の奥の方まで進むと時おり上着を擦っていた牙崎もあわせてついてくる。
寒いなら中に戻ればいいのにと思いながらも何も言わなかった。
文句があるなら口に出すだろうとわかっていたから。

 手すりに腕を掛け、暖かい自分の腕に顎を乗せてぼうっと飛行機が空に飛び立つ姿を眺める。
タケルは青空に飛び立つ鳥みたいな姿に目をずっと惹かれていた。
あの鳥はずっと雲の上まで飛んで、晴れてても曇ってても雨が降っててもそんなことは関係のないところまでゆくのだ。
まるで邪魔なものがいない世界のように。

 ただ唯一影響があるとすれば、それは風だけだろう。

 飛行機も、鳥も、空を越える存在にとっては、風の力で助けられることも、悪い影響を受けることもあるのだ。
なんであれ飛ぶ鳥には風が必要な存在だった、どこまでも高く遠く行きたいところへ行くための糧。
そんな関係性が少し羨ましいと思いながら、タケルは肌に触れる風の心地よさに意識を預けて眼を閉じた。
すると背後に暖かい気配を感じて、さらにそれは直にタケルの背中を熱くした。
牙崎が後ろから包み込むように抱き締めてきているのだということがわかったが、
特に何か文句を言いたいわけでもなかったのでタケルはそのままにしていた。
その自分を受け入れる様子に牙崎は、続けて背後から手を伸ばしタケルの目を掌で覆った。

「……なんだよ」
「……寝てんのか確認しただけだ」
「そんなわけないだろ、馬鹿」

 さすがによくわからない行動がおかしくて聞いてみれば、短時間で寝るはずもないのにそんな言葉が返ってきたものだからついつい悪態をついたところ、舌打ちをされた。

「いい加減さみーんだよ、まだここにいんのか」
「……風が気持ちいいんだ。オマエは戻ればいいだろ、連絡が来たら声掛けるから」
「冗談じゃねーし」

 すると後ろから抱き締めてくるように覆い被さっていた牙崎が自分の後頭部にごつりと額を預けてきた。

「つーかオレ様がいねーとダメだろ」
「連絡手段持ってるの俺だけなんだからそれは逆だ、ろ……」

 喋るたびに牙崎の熱い息がうなじにかかっては、寒気で冷えていく感覚にぞわぞわと背筋に痺れが走るのを感じて、それがむず痒くてタケルが背後の牙崎に顔を向けると、それを待っていたかのように唇を重ねられた。
少し長く触れたあと、下唇を噛まれ、舌で唇を舐められた。
突然の行為に驚いてしまったが、タケルは人の目を気にする前に牙崎の眼を見てしまい、つい捕らわれた。

「勝手にひとりで連れてかれてんじゃねーぞ」
「なに、に……」

 牙崎の眼はいつも通り力強かったが、どこか拗ねた子供のような眼差しが混じっているのが見えて、その意図を汲み取ってしまったタケルは芯がじんわりと熱くなった。


そうか、こいつ──。


「オマエ、案外……」


──ぴろんっ


 タケルが何かを言い掛けたとき、スマートフォンの通知音がした。
ポケットから取り出して中を見ればプロデューサーからで、新しい交通手段の手配と詳細が細かく書かれていた。
二人してそれを見て、少し無言になったあと、触られずに暗転したスマートフォンの画面にお互いの姿が映ると、それを皮切りに牙崎がタケルから離れた。

「……おら、チビさっさと行くぞ」
「……わかってる」

 踵を返して出口に向かう牙崎に続くようにタケルも一歩足を進める。
名残惜しそうに、青空を背に離着陸を繰り返す鳥たちを横目にしながらタケルは言い掛けた言葉を自分の中で反芻した。


『オマエ、案外……ロマンチストなんだな』


 自分の思い過ごしでなければあれは多分、鳥と風に嫉妬していた自分を、牙崎は本能で察したんだろう。
そんな仮想に溺れ始めた自分を、だからこっちに引き戻そうとしてきたのだ。
そんなことに結び付くなんて、ロマンチスト以外のなにがあるのか。
そこまで考え自分も大概ロマンチストだなと己に呆れながら、タケルは暗転したスマートフォンをポケットに捩じ込み、いまだに熱さを覚えている唇を擦ってから、牙崎の姿を追い掛けた。



 風と歩めていけたらなんて、そんなことを考えた。
暖かい肌に触れる冷たい風は、姿を明確にして輪郭をなぞってくれる。
しかしタケルの中に吹いた風は、体温に馴染むみたいにほんのり熱くて、そんなものに気づけるほど器用ではなかった。


 風はとうに自分と共にあったことも知らずに。



風と一緒に

2019/09/19 Site up
2018/03/24 Create

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