Menu

水面下

It ’s an unofficial fan site.

漣×タケル

同棲している漣タケ。
元ネタは#同人タイトルスロット結果「朝 を待つ ような話」のタイトルで結婚する前提ワンライ

朝を待つような話

 漣がタケルの部屋に居座ることになってからどれくらい経っただろうか。
アイドルになる前はまさかあんな毎日勝負を挑んでくるような勝負馬鹿と住むことになるなんて思ってもいなかった。日本に住んでいながら親もなく、家も無いときたあの異質な男とアイドルを始め、肉体関係など持ってしまいあれよあれよと恋仲だ。
 気づけば流れるように数年が経ち、二人で住めるような大きめの部屋に引っ越し、タケルは24歳となり、翌日には25歳という節目に差し掛かっていた。時計の針が全てテッペンを向けば、誕生日を迎える。もうさすがにこの年齢ともなると、ひとつひとつ年齢を重ねていくことへの楽しみは特に無く、年を数えることも忘れてしまうような気がした。

 そんな前夜、時計の針がテッペン残り半分を示す頃、タケルは倦怠感を抱えた体を支えながら、のそりと暖かなベッドから起き上がる。

「……明日の仕度、忘れてた」
「……あ?明日でも良いだろ」

 ベッドから起き上がろうとすると、隣で共に情事に溺れていた男に腕を捕まれ再びベッドに誘い込まれる。しかし己の意思は固く、なかなか頑なに引き倒されないタケルに対して不満な色を見せてきた漣に対して、慣れたように腕を振り払った。

「駄目だ、どうせこのままだと明日、寝坊するだろ。……オマエのせいで」
「……ハッ……わかってんじゃねーか」

 振りほどいてきた腕に再び手を掛けようとしていた漣は、タケルの言葉を聞いてニヤリと笑う。寝坊する前提ということはつまり、この後も続きはあるということだ。その意味をしかと汲んだ漣は機嫌よくそのままベッドに腕を落とすと、さっさと行けよと言うように大きく欠伸をした。
 そんな漣を横目にタケルは簡単に下着を身に付け、リビングへ向かうと明日の仕事で使う荷物をまとめ始めた。大した荷物はないのだが台本やら小道具やらを情事に及ぶ前に漣と二人で広げていたため、お互いの荷物が散乱していた。
 お互いの抱えている仕事が違うため、整理してしまわないと翌朝バタついた際にいつなにが混じって入れ替わるかわからなかった。至極真面目なタケルはそれを危惧して、情事の途中だろうがこちらを優先した。
タケルの性格をさすがに理解しはじめていた漣はそれに対して文句は言うものの、結局は用事が済めば再び腕の中に戻っていること知っていたし、それならばと最近は物分かりが良い姿勢を示してきた。
 それはタケルにとっても好都合だったし、一緒に住んでいる以上は無駄な争いを避けてくれる方がありがたかった。
 そう、一緒に住んでいる以上は。

 恋仲でありはするものの所詮は一人の他人同士だ、この関係がいつまで続くかはわからなかった。性別など今さらどうでもよかったが、いつかお互いに他に好きな人が出来たり仲が違えばそれで終わりなのだ。そんなことはいつでも覚悟の上でいたし、これからもきっとそうだとわかりきっているため、タケルはあえて考えても無駄な案件として放置していた。

 今日は今日、明日は明日なのだ。

 タケルは漣の荷物と一通り分け自分の鞄に納めていった。ある程度終えると漣の荷物が目について、どうせアイツのことだから朝方そんな時間を作ることもしないだろうとすぐに察した。面倒だがアイツのぶんもまとめてやるかと、漣用に用意していた鞄を引っ張り出して荷物を次々放り込もうとしたそのとき、鞄の底にゴツリという感触があった。
 なんなんだろうかと手を突っ込んでみたところ、なにやら小さい箱が二つ押し込められていた。手にとってみると同じサイズの四角い赤と青の箱だった。漣の荷物にこんなものを入れた記憶はあったろうか、もしくは仕事の道具のひとつだろうかと考えたが、そもそもそれ以前にこれがなんなのかがわからなかった。背中越しに漣をチラリと見てみるが漣は暇そうに、今はすでに手慣れたスマートフォンをいじくっていた。
 こちらには気づいてない様子を見てタケルはなんとなく沸き上がった好奇心に負けたくなってしまい、漣から見えないようにタケルはおそるおそる赤い箱に手を掛けた。


 少し空いた隙間から覗いたものは、銀色に光る、リングだった。

 その瞬間、なにか見てはいけないようなものを見た気がしてバコンッと勢い良く閉めてしまった。
 今のはなんだったのか、と、タケルは頭の中で困惑している自分を落ち着かせようとした。なにかいろんなところで見たことがある何かがそこにあった。
 あの牙崎漣がどうしてこんなものを、という、困惑。

 バクバクと荒れはじめる心臓にタケルは深呼吸を繰り返す、その最中もうひとつの青い箱が目に入った。
それ以上の情報を得たらどうなってしまうのかとタケルは恐怖と動揺に煽られながらも、しかし好奇心には勝てなかった。
 おそるおそると同じように箱を少し、開けようとした。

「オイ、チビ!おせえ!」
「!!」

 背後から掛かった漣の声にタケルは肩をビクンッと跳ね上げ、同時に青い箱の口は固く閉ざされた。後ろを見れば漣がガルルッと唸りそうな表情でこちらを睨み付けてきていた。時計を見ると10分も経過していて、待たせすぎてしまったことに気づいたタケルは「今行く」と告げて手にしていた青い箱も、赤い箱も漣の鞄に再び押し込めた。中身が結局なんだったのか、何に使うものだったのかはわからないが、このあとに聞くのは野暮というものだろう。
 むしろそんなことを聞いている間もなく二人とも色欲に溺れてそんな場合ではなくなるのだ。

『話を聞くのは、朝にしよう』

 タケルは後ろ髪を引かれる思いになりながら漣の鞄を手放し、おあずけと待て状態を食らっている牙の元へ、踵を返して再び足を進めた。



朝を待つような話<

2019/09/19 Site up
2018/03/27 Create

top