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水面下

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創作P×タケル

男性Pとタケルのバレンタインの話です。 CPにはなってないですが、P←タケ未満。

今年の君へありがとう

事務所に届いたアイドル宛のチョコレート。
箱や紙袋に納められていたものは、都合もあり前日、当日、翌日に分けて各アイドル達の手に無事渡っていった。
数が消えていくごとに、同時に事務所からも甘い香りもだんだんと消えていく。

アイドルのチョコを分配し捌けさせつつ、同時にバレンタインの仕事を指示したり付き添ったりしていたプロデューサーは、バレンタインが終わり甘い賑やかさが終わった部屋の中で、ファンから届いたチョコが詰まった最後の箱を開け、青くラッピングされたチョコを手に取り、添えられたカードの名前を確認。
「大河タケルくんへ、これからも応援してます」と書かれた可愛らしい文字、裏にしてみるとカードいっぱいいっぱいに、タケルを応援する想いの丈が書き込まれており、ふふっと思わず笑みがこぼれた。

「ファンからのチョコレート…大事に好かれてるのが目に見えると嬉しいもんだな」
「……プロデューサー、それ、俺宛のか?」

プロデューサーの手伝いをしようと、同じく事務所内にいたタケルが隣からひょっこりと顔を覗かせた。
今日はタケルはオフのはずだが、暇ができたからと朝のランニングを終えたあとに立ち寄ったらしく、そのついでに回収しきれなかったファンからのプレゼントを取りに来たのだ。
そこにちょうどよく新しい荷物が届き、せっかくだからと自ら手伝いを申し出てきたのだった。
プロデューサーが手に持っていたカードの名前が目に入り、自分宛のものだと察したタケルが興味を示していたので、手の中にあったチョコとカードを手渡す。
タケルは大事そうに受けとりメッセージに目を通すと、最後まで読んで嬉しそうに表情を綻ばせた。

「……こんな俺にも、ちゃんとファンがいてくれるんだよな」
「こんな、は余計だ。タケルの頑張りを見て、好きで応援してくれるファンはたくさんいる。それは日に日に増えてるんだから」
「わかってる、去年と比べて…たくさん届いたなって思った。もっともっと、ファンのみんなや応援してくれる人の期待に応えられるように、頑張らないとな」

デビューしてから3年の月日がたち、THE虎牙道の仕事も目に見えて増え、ファンレターもプレゼントも、ファンもお客さんの目の数も多くなった。
それを一番体感しているのは、何者でもないタケル自身だ。
アイドルは知名度も人気も上がれば上がるほど、たくさんの責任を抱えることになる、その重圧をどう捉えるか、どのくらいの重さと受け止めるかは本人以外にはわからない。
その圧に負けてしまえばポッキリと折れてしまうし、途端に前に進めなくなることもある。
そんなアイドルに対してプロデューサーにできることといえば、その圧をアイドルがどう受け止めているのかを理解して緩和させ、やりたいこと、させたいことに掛かる負担の半分を預かり、彼らが最大限の力を出せるように導くことくらいだ。

とはいえタケルに関しては、その圧に折れるどころか人の目が多くなることを喜びに反映させているようだった。
それもそのはず、今まで自らの目を配らせ探していた家族を、今では自分の姿が家族に届けて見つけてもらうことを目標にしてからというもの、その中でアイドルとしての楽しさを体感し、ファンを喜ばせたい、頂点を目指したいという心の変化があったことを教えてくれた。
タケルは今では、しっかりとファンと向き合いたいと願う一アイドルになった。
それは最初に出会った頃の真面目ゆえの不器用さがあった時期とつい比べて見てしまうからこそ、今の楽しそうな姿にはとても喜ばしい気持ちになるというもの。

つい過去と比べてしまうのは、現在と差があるからだ。
それは成長の証でもあり、変化したことを自覚しているからでもある。
その変化は本人だけでなく周囲の人間も、遠くから見ている人間にだって、伝わっている。

「……このプレゼントくれた人」

いくつかプレゼントを仕分けていると、タケルの手が止まった。
どうやらそれはタケル宛のチョコレートらしいが、当の本人は添えられた手紙の封筒をじっと見ているだけである。
何か思い当たることがあるのか記憶をしばらく探っている様子を見せたかと思えば、さらに記憶を辿るように意を決し、静かに手紙を取り出した。
タケルの様子が気になりそっと手紙に気を向けてみれば、なるほどプロデューサーである自分にもその記憶の断片の答えを探すことができた。
だがやはり、手紙を読んだ本人のほうが答えにたどり着くほうが早かったようで、タケルが嬉しそうな顔でプロデューサーに顔を向けた。

「デビューした頃から手紙くれてた人だ。去年も贈ってくれたけど、今年も……」

それは、タケルがデビューして初めてのライブを見て、THE虎牙道のファンになったという男性ファンからの贈り物だった。
男性アイドルであるため付くのは女性のファンがほとんどだが、THE虎牙道の元格闘家という特色柄もあり、甘いフェイスや甘い言葉を吐かずただただ男らしさを見せつけてくるスタイルのかっこよさに、心を奪われる男性ファンも今では少なくない。
その中でも、タケルが心を躍らせているのだとわかる、今日一番の嬉しそうな笑みを生ませたそのファンは特に、その初期のライブの頃から熱心に、いつも同じ便箋を使ったファンレターや、イベントある毎に手紙を添えてプレゼントを贈ってきていたため、タケルの印象に強く残っているのだ。
そういったファンはもちろん他にもおり、その男性ファンもそのうちの一人としてタケルは記憶が結び付くたびに喜びを浮かべていた。

「このファンの人、男の人だけど毎年チョコレートくれるんだ。あ、あとホワイトデーにも、……ちょっと面白いよな」
「それだけ、タケルのこと応援したいんだよ。タケルはタケルでちゃんと仕事でお返ししないとね」
「そうだな。最初の頃から応援してくれるファンにも、新しくファンになってくれた人にも、見守ってくれるスタッフの人達にも、事務所のみんなにも…アンタにも、な」

濃紺の髪がゆらりと揺れて、チョコレートに向けられていた瞳はプロデューサーへと、やわらかな笑みと共に向けられた。
髪色と同じ濃紺の瞳には、仕事中やライブ中に見られる力強い青い炎を纏わせたものとはまた違う、幸せを纏っているようなきらきらとした希望の光が宿っているように見えた。
その瞳に映る輝きはいつからそこにあったのだろう、スカウトをして衣装を与えた頃にはまだ無かったはずなのに、今ではこんなにも輝いている。
仕事のサポートをしてる時や、タケルの感情が揺れたとき、気がつけばいつの間にか、幾度と見かけるようになっていた。
そして、信頼を寄せてくれているのだと、タケルの瞳が、真っ直ぐな言葉が、いつもプロデューサーに語るのだ。

プロデューサーに見つけてもらえて良かった、と。

そのたび、アイドルの道に進んでくれたことにお礼したいのはこちらなんだけど、と、自分のスカウトしたアイドルの尊さに打たれて頭を抱えそうになりながら、
さらに今回ばかりは「まぁ、最初のファン一号はプロデューサーである自分なんだけど」と、つい口から出そうになったのを飲み込み、プロデューサーは自分の感情を胸にしまいこんだ。
そして、純粋に信頼の瞳を向けてくるタケルに、ただただ「これからも頑張ろうな」と返して、残りのチョコレートに手を伸ばした。









「そういえばプロデューサーは、今年は仕事以外でチョコ貰ったのか?」

箱に入ったチョコレートをすべて片付け終えたあと、自分のデスクまわりを片付けていたプロデューサーにタケルが声をかけた。
タケル本人にとっては何の気なしに世間話を始めたつもりだったのだろうが、その言葉にプロデューサーはピタッと止まる。
一瞬シンと静まった空気にタケルが「プロデューサー?」と声をもう一度かけてみれば、この世終わりとでも言いたそうな顔を向けられタケルはビクッと肩を揺らす。
もうそれで察してしまったものの、ここで会話を止めるのもなんだか歯切れがよくないと感じてタケルはデスクを片付けているプロデューサーの近くにあったパイプ椅子に座りながら表情を伺った。

「……なんだよその顔、彼女とか」
「いるわけないし…。いや、まー……モテないからねぇハハハ」
「……貰ってないのか」
「言うなよ」

独身でこの業界で飛び込んだものの入った世界は、男性アイドル業界。
男の自分が女性と関われる機会といえば仕事くらいだった、特にこの3年間はあちこち飛び回りの日々で恋愛事にうつつを抜かしている暇などなかったのだ。
そんなこと、担当しているアイドルに言えるわけもなく、むしろ言うものでもないしこの仕事が嫌なわけでもないし、それが理由でチョコを獲得できなかったわけでもない。
いろんな感情が巡りながらも、プロデューサーは口をきゅっと閉じた。
そんな様を見ていたタケルは、少し落ち着きがない様子で辺りをキロキョロと見渡し、誰もいないことを確認すると立ち上がるとプロデューサーの目の前に立った。
え、なに…とプロデューサーが瞬きしていると、タケルは少し躊躇いながらも上着のポケットから小さな箱を取り出し、プロデューサーの胸に箱を押し付ける。

「……じゃあ、これ、やるよ」
「え」

手渡された箱は、手のひらに小さく乗る大きさで、白い箱にシンプルな青いリボンが飾られていた。
箱とタケルを交互に目配せしていると、若干の恥ずかしさをごまかすように頬をポリポリと掻きながら、口ごもった。

「……一応、用意した。……アンタに最初にあげたの、俺になると思わなかったけど」

いつも世話になっているお礼として渡す習慣もあるということを思い出し柄にもなく用意してみたものの、てっきり他の奴等も渡してると思ったということと、ランニングついでに寄ったのはこれを渡すためだったんだけど、と続いてタケルは口を開いたが、
一番のファンである大事にしているアイドルからこんなものを貰ってしまったことに対して感極まり思考が停止しているプロデューサーの頭には届くはずもなく、ただただ今日の日ありがとうという言葉を繰り返すしかなかった。



今年の君へありがとう

2019/09/23 Site up
2018/02/17 Create

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