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水面下

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創作P×タケル

バレンタインの続きみたいなもの。がっつり淡めの男P←タケル(男Pは創作P設定)

甘い星屑

 バタバタと騒々しい足音が事務所の中を響き渡らせる。
ソファーに座っていた大河タケルは、雑誌のページを捲りながら向かいのソファー越しにその姿を目で追うようにちらりと見た。
目線の先には、プロデューサーが朝から慌ただしく仕事の準備をしているのが目に入り、そのままぐるりと事務所を見渡せば、色とりどりの光景が目に入る。
それは先月も見たことがあるような光景である。

 今月もたくさんのダンボールの山、そして手紙、仕事の資料に資材に衣装…ホワイトデーの時期になると男性アイドル所属事務所はホワイトデーの企画に大忙しだ。
バレンタインのみならずホワイトデーも仕事がたくさん来るのは事務所としても嬉しいことで、さっそく今日も朝からホワイトデーのイベントでHigh×Jokerの数名やW、冬馬や牙崎などといったメンバーを送り出す手配に追われていた。
 朝から事務所に用事があったタケルも物を運ぶなど出来る範囲で手伝いはしたが、今はタケルにできることはないらしく、午前の仕事までの時間ゆっくりしていろとプロデューサーに言われ、おとなしく雑誌をパラパラとめくっていた。
雑誌には今年のホワイトデー特集などが掲載されていたが特に興味があるページもなく興味はすぐに消えてしまった、いっそ走りにいった方が合理的なのだが仕事のことを考えるとそういうわけにもいかなかった。

 そもそも事務所にタケルが来ていた理由は、ホワイトデーのお返しと言うことで訪ねてきたのが一番の理由。
プレゼントを用意したのは自分だけではなく他にも4人のメンバーがいたが、プロデューサーと時間の都合が合致したのがタケルだったのだ。
タケルとしては好都合で、あわよくば仕事の話や他愛のない話をしたかったが、案の定イベントの立込でそれどころじゃない状況に、ほんの少しガッカリしていた。
雑誌に読み飽きたタケルは雑誌を捲る素振りをしながら、向かいのソファー越しにバタバタと準備しているプロデューサーの姿を眺める。
なにか手伝えればいいが事務関係は特になにもできないし…と、考えていることしか出来ないのがタケルは少し悔しかった。

「……ケル、タケル」
「え、あっ…な、なんだ?」

 いつのまにかぼーっとしていたのか、プロデューサーの呼び掛けにすぐ応答できず、タケルはギクリと肩を跳ねさせた。

「バタバタしててごめんな」
「……いや、仕方ない。ホワイトデーなんだし……俺こそ忙しい時に悪かったな」

 プロデューサーはソファーに座るタケルの横にしゃがみこみ、目線を合わせてきた。
道流くらいの背があるため、プロデューサーはこういう時よくしゃがんだ、タケルはプロデューサーを見上げている方が好きだったが、自分と目線を合わせるためにそうしてくれるのは、もっと好きだった。
そんなプロデューサーを困らすまいと、気を遣って声を掛けてくれたものだから、タケルはふるふると首を振る。
すると、そんなタケルにプロデューサーが、あー……と少し目線を泳がせながら、ひっそりと手元に忍ばせていた小瓶を何度か手で転がしたあと、タケルに差し出した。

「そのホワイトデーなんだけど、これやるよ」
「……え」

 プロデューサーが差し出してきたのは、ちょうど手の中に収まるほどの透明な小瓶、小瓶の首元には青いリボンが控えめに巻かれており、これは恐らくプロデューサーがつけたのだろう黒猫のチャームがぶら下がっていた。
揺れる度にカラカラとちいさな音をたてる小瓶をタケルが手に取ると、目の前に持ち上げその姿をきらきらした瞳で見つめた。

「金平糖……」
「かわいいだろ。……それバレンタインのお返し」

 からからと鳴っている正体は、青と白の金平糖だった。
ちいさなかわいらしい姿にタケルはほんわりと心を和ませたが、プロデューサーの言葉にふと気づく。

「……バレンタインのって…でもあの時アンタもくれただろ」

 それは前回のバレンタイン、タケルはプロデューサーにひっそりと用意して渡してみたところ、他の誰にも貰っていなかったという事実が発覚して内心びっくりしていた出来事だった。
あの時は、あまりにもプロデューサーが喜んでくれたのでタケルとしてはそれだけで嬉しかったのだが、帰り道コンビニに寄った際にプロデューサーがいつの間に買ったのか、タケルが好きそうだからという理由で猫型のチョコを手渡されたのを思い出した。
バレンタインにお互い渡したのだからチャラなのだと思っていた、タケルは金平糖とプロデューサーを交互に見て、困惑の色を浮かべた。

「まぁ……あれはバレンタインだから、それはホワイトデー」
「……お、俺なにも用意してない、すまない」
「あーいい、いい、俺があげたかっただけだし。それにさっき貰った」
「……あれは、みんなからで」
「うん」
「……」
「納得いかない顔してんなぁ」

 用意すればよかった、と顔に書いてあるような表情をしているタケルにプロデューサーは思わず笑いそうになったが、至って真面目な性格をしているタケルの心境を考えて、それはやめた。
肩を落としそうな姿に、プロデューサーはやれやれとタケルの頭をわしゃりと撫でる。

「……じゃあ、タケル今夜あいてる?」
「え、……ああ」
「飯、付き合ってくれ、それがお返し」
「……お返しになってない気がするんだが」
「なるなる、若い子が中年の相手してくれるだけで嬉しいから」
「なんだよそれ、……わかった」

 プロデューサーだってまだ若いくせに何言ってんだよとでも言いたげにしながらも、ふはっとタケルは顔を綻ばせた。
どうやらそれで納得はしてくれたらしく、気持ちを切り替えるようにタケルは手にした金平糖のビンを何度かカラカラと鳴らすと、瓶の蓋をきゅぽんと開け、手のひらに数粒転がせた。
青と白の金平糖が可愛くぶつかり合い、タケルは暫くそれを眺めたあと、ひとつふたつ摘まんで口に放り込む。
するとじんわりとほのかな甘味が口の中を撫で、少し噛み砕けば砂糖らしい甘さが広がっていった。

「……おいしい」
「……まあ、ただの金平糖なんだけど」
「そう言うなよ」

 くれたものなんだから美味しい、それでいいんだとタケルは思いながら、またもう一粒口にした。
口の中をトゲトゲした金平糖が優しく転がり、また甘さが広がっていくと同時に、心がふわふわと幸せな気持ちになった。
タケルはまた金平糖を瓶から取り出すと、おもむろに一粒摘まみ、自分の口にではなくプロデューサーに差し出した。

「プロデューサー、ん」

 青色の金平糖を一粒、プロデューサーの口許に寄せる。
はて、と、きょとんとプロデューサーが瞬き見やれば、タケルがもういちどくいっと指を動かした。

「おすそわけ」
「ああ……なるほど」

 タケルにあげたやつなんだけどなと思ったが、恐らくお兄ちゃんという体質を備えているのだろう、おいしいものは分け与えるみたいな心理か、とプロデューサーはなんとなく察した。
ちらりとタケルを見れば、ほら、と言う目線と出会ってしまったので、まあいいかとプロデューサーは、タケルの指先に唇を寄せた。
青い金平糖が口内に捕らわれる瞬間、タケルの指先に唇が触れて、一瞬ぴくりと震えた気がした。
そのわずかな反応に「ん?」と目線を上げれば、タケルは少しびっくりした顔をしていた。
その様子に、プロデューサーは頭の中で色々と思考を巡らせる。
確かに口許には寄せられていたが、普直接差し出されたものを口で受け止めるのは不味かったろうか、いや普通に考えて男相手にそれやられたら嫌だろう、ということに行き着きプロデューサーはハッとした。

「……え、ごめん手に取った方が良かった、よな」
「あ、いや……!別に……」

 慌てて弁解を口にしそうになっているプロデューサーを見て、タケルはその意図を汲み取ってしまい思わず耳をカッと赤くした。

 二人の間に、わずかな沈黙が始まりそうになった。

 矢先に、このままではいけないと慌てたタケルが、口ごもりつつ何かを言いたげにしながら、引っ込めかけていた行き場を失い宙に浮いてしまっていた指先を、おもむろに自分の口許に運び、そのまま自らの唇に

「……そのつもり、だったし」

──触れた。


 はた……と、それを見たプロデューサーが止まる。
その行動はなんなのか、と思考も止まる。
しかし当の本人は、なにも気付いていないようで……いや気付かせない方がいいのかとすらも、考えてしまう。

 プロデューサーが眉間に指を当てて考え始めている姿に、タケルは不思議そうな顔をしながらプロデューサーに声をかける。

「……どうしたんだアンタ」
「……いや別に、なんでも」

 このアイドルは無意識かつ無自覚なのかと、誰にでもこうなのかと一瞬不安がよぎりそうになったが、聞いてしまうと本人が気づいてしまうと感じてあえて何も言わないことにした。

 少しして、事務所の扉の向こうから誰かの話し声が聞こえてきたことで、気がつけば時刻はまもなく午前11時を迎えようとしていたことに気づく。

「もうこんな時間か……タケル、そろそろ出るんだろ、気を付けて行けよ」
「ああ……。……アンタ、仕事終わったらメール忘れるなよ」
「はいはい、わかってるよ」

 プロデューサーはその場で立ち上がると、タケルの頭をくしゃくしゃと撫でた。
そして今晩の約束を確認しあいつつ、支度を手伝ってから事務所から現場に向かうタケルの姿を見送った。
その背中を見送りながら、先程の事はあまり考えないようにして、プロデューサーはただただ今晩ふたりで何を食べに行こうかということだけを巡らせたのだった。





 足取り軽く、地を駆ける。
まだ気温は暖かくはないが、走っているせいもあるのか、不思議と体は熱かった。
大河タケルは走りながら、ポケットの中に押し込んだ金平糖の跳ねる音色を聴く。
カラカラと鳴る音が耳にやけにこびりつくたび、胸が高鳴る。
走るために握りしめた手を開き、指先を見つめると、タケルは再び口許に触れた。

「……鈍いんだよ」

 まだ、胸がドキドキしていた。
気づいてほしかったのか、気づいてほしくなかったのかは、わからない。
だけど、あの瞬間に湧き出てしまった感情を露にするのはまだ、怖かった。
肌に触れる寒気で頭を冷やすように、タケルは大きく息を吸い込んだ。



甘い星屑

2019/09/22 Site up
2018/03/16 Create

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